マンション管理規約変更と特別の影響
マンション管理規約変更等の制限
マンション管理規約(以下「規約」といいます。)は、マンション内の区分所有者や住人の権利義務等のルールを定めたものですが、そのルールについて、新たにルールを定めるなど、規約の内容を一部変更することも生じ得ます。
規約を変更するには、区分所有法や規約にのっとり、総会の決議等を経て変更内容を多数決で承認する手続き等が必要です。
しかし、規約の変更等においては、多数決で変更等を取り決めたとしても、その変更によって一部の区分所有者の権利に特別の影響を与える場合には、その利害関係を持つ区分所有者の個別の承諾が必要となる場合があります。
区分所有法31条1項の規定と当該規定の解釈について
区分所有法31条1項は、「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」と定めています。
この条文はそのまま読むと、規約の変更等が、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすときは、常にその利害を有する区分所有者の個別承諾が必要としているようにも読めますが、判例は以下のように述べ、この個別承諾が必要な場合は、規約の変更等が、当該区分所有者の受忍限度を超える場合に限られるとしています。
具体的には、判例は上記の区分所有法31条1項の個別承諾が必要となる場合の判断基準について、「規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が右区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう」と述べています(最高裁平成10年10月30日第二小法廷判決)。
このように、一部の区分所有者に不利益となる規約の変更等においては、当該区分所有者の被る不利益と、規約の変更等の必要性、相当性といった両者の利益衡量をして、様々な事情等を考慮したうえで、個別の承諾の要否が判断されることとなります。
そのため、一律にこのような場合は個別の承諾が不要、このような場合は個別の承諾が必要というように結論づけることは困難ですが、以下のように、個別承諾の要否が争点となった過去の裁判例が参考となります。
特別の影響に関する個別の承諾の要否が問題となった裁判例
上記の個別承諾の要否が問題となった裁判事例として、ペット飼育を禁止する規定を規約に盛り込む変更を行ったことが、変更以前からもともと犬を飼育していた区分所有者の権利に「特別の影響を与えるもの」であるかが争点の一つとなったもの(東京高判平成6年8月4日 判時1509号71頁)があります。
上記裁判の判決では、盲導犬の場合のように、何らかの理由によりその動物の存在が飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する場合には、その区分所有者(飼い主)にとって、その権利に特段の影響を及ぼすものとしつつ、ペット等の動物の飼育は、飼い主の生活を豊かにする意味はあるとしても、飼い主の生活・生存に不可欠なものというわけではない一方で、動物である以上は、その行動、生態、習性などが他の入居者に対し不快感を招くなどの影響を及ぼすおそれがあること等の上場を考慮すれば、規約の改正により動物飼育の全面禁止の原則を規定しておくことは合理的な対処方法であることなどが判示され、結論としてペットの全面禁止を原則とする規約の変更は、一部の区分所有者の権利に特別の影響を与えるものとはいえないと結論づけました。
したがって、上記裁判例では、多数決によりペットの全面禁止を原則とすることにした規約の変更は、もともと当該マンション内でペットを飼っていた区分所有者の個別の承諾は不要と結論付けられています。
個別承諾の要否については個別事情により結論が変わり得ること
上記(2)で引用した裁判例では、様々な事情を考慮したうえで、ペット飼育を原則全面禁止とする規約の変更について、変更以前からペット飼育をしていた区分所有者の権利に特別の影響を与えるものではないとの判示がされ、規約変更が有効とされています。
しかし、この裁判例から、ペット飼育を禁止とする規約変更が、変更前からペット飼育をしている区分所有者の個別の承諾なしに常に可能とまでは言い切れません。
個別の承諾の要否の判断には、様々な事情が考慮されており、その中の考慮要素として、裁判所の判断がなされた時点の社会状況なども考慮され得るため、社会状況として多くのマンションにおける規約でペット飼育が禁止されている状況であった上記裁判例の判決当時(平成6年頃)と、現在とでは情勢が異なってきていることなどから、何らの経過措置も取らずに、ペット飼育を突然、全面禁止とする規約変更を行うような場合には当該変更が一部の区分所有者に特別の影響を与える変更であるとして、当該変更が無効と裁判で判断されてしまう可能性もあり得ます。
そのため、規約の変更にあたっては、現在ペットを飼育している区分所有者は、一代限りで飼育を認めるなどの経過措置を講じた上で規約変更を行うなどの対応をすることで、裁判で無効となるリスクを低減するなどの対応も必要かと思われます。
監修弁護士紹介
弁護士 亀田 治男(登録番号41782)
経歴
2003年3月 | 上智大学法学部地球環境法学科 卒 民間生命保険会社(法人融資業務)勤務を経て |
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2006年4月 | 東京大学法科大学院 入学 |
2008年3月 | 東京大学法科大学院 卒業 |
2008年9月 | 司法試験合格 司法研修所入所(62期) |
2010年1月 | 弁護士登録(東京弁護士会) 都内法律事務所にて勤務 一般民事(訴訟案件等)と企業法務に幅広く携わる。 楽天株式会社の法務部にて勤務 |
2018年1月 | 渋谷プログレ法律事務所開設 |
2021年5月 | プログレ総合法律事務所に名称変更 |
資格
・宅地建物取引士
・マンション管理士
・管理業務主任者
・中小企業診断士
・経営革新等支援機関(認定支援機関)