滞納管理費の請求の具体的手続

マンション管理組合の運営やマンションの維持のためには、各区分所有者からの管理費や修繕積立金の徴収が適切に行われることが極めて重要です。

しかし、場合によっては、特定の区分所有者からの管理費や修繕積立金の徴収が長期にわたってできない場合もあります。

そうした場合には、管理組合としては、郵便による督促の通知を送ったり、訪問して支払を求めたりすることもあるかと思いますが、それでもなお支払の意向が滞納者から見られない場合には、やむを得ず、そうした滞納区分所有者に対して、滞納管理費等を訴訟等の法的措置によって徴収することが必要になる場合があります。 

なお、区分所有法7条は、滞納管理費、滞納修繕金といった債権については、滞納区分所有者の区分所有権および建物に備え付けた動産に対し先取特権を有することを規定しているので、管理費の請求訴訟を提起しなくても区分所有権等の競売や、上記動産の差押えを直ちに裁判所に求めることも可能です。 

しかし、先取特権の対象となる資産は一定の範囲に限られるため、滞納区分所有者に預貯金や株式、滞納管理費に係る区分所有建物とは別の不動産資産等がある場合には、それらは先取特権に基づいては差押えることはできません。

 そこで、以下に滞納管理費等について法的措置を取る場合のおおまかな手続の流れを説明します。

 1.訴訟の提起等の決議

管理組合の理事長は、管理費を滞納している区分所有者に対して、滞納管理費請求の訴訟等を行う場合の手続としては、総会の決議を得るか、または管理規約に定めがある場合にはその規定に基づいて訴訟等の提起ができます。

 標準管理規約では、理事長は理事会の決議に基づいて、滞納管理費の請求を行うことができると定められているため、このような規約がある場合には、理事会の決議に基づいて理事長は滞納している区分所有者に管理費を請求する法的措置を取ることができます。

 2.弁護士による滞納区分所有者への訴訟提起

次に、管理組合から委任を受けた弁護士(本人訴訟の場合は管理組合)が、滞納区分所有者を相手方として、訴訟を提起することとなりますが、この時に問題となり得ることとして、滞納区分所有者の所在が不明な場合があります。

 訴訟の提起においては、まず訴えを提起する側が訴状を作成し、裁判所に訴状を提出のうえ、裁判所から相手方(被告)に訴状を送達してもらうという手続を経る必要があります。

 そのため、裁判所から被告に訴状を送っても届かない場合には、付郵便送達または公示送達といった手続をとる必要があるところ、これらの手続を裁判所にとってもらうためには、申立人側において、被告の居住状況を調査のうえ、調査結果を裁判所に報告する必要があります。

 このようなプロセスを経て、無事、訴状が被告に送達されたうえで、裁判所によって管理費等の請求が妥当と認められれば、裁判所による判決を取得することができます。

 なお、被告が訴状を受け取ったうえで内容を争ってきたり、支払条件について話し合いによる解決が可能な場合には弁護士がこうした被告の主張について、管理組合と協議のうえ、反論や和解条件の交渉を行います。

 裁判所を介して和解が成立した場合には裁判所により和解調書が作成されます。

 3.判決取得後も支払がなされないとき

判決を取得しても相手方に支払う意思がない場合や、所在が不明な場合には、そのままでは滞納管理費等の回収ができません。

 そのため、判決書き等の債務名義を基に、相手方の財産に対して差押えを行うことにより滞納管理費等を回収できないかを検討することとなります。

 例えば、相手方に預貯金等の資産があることが判明した場合には、債務名義(判決書や、和解調書等)があればそうした預金口座の資金を差押えることにより、回収ができる場合があります。

 しかし、相手方にめぼしい財産が何も見当たらない(相手方の所有する区分建物がオーバーローンである場合も含む)場合には、このような差押えをすることも実効的ではないことになります。

 このような場合、最終的な手段としては、区分所有法59条に基づく競売の申立てを行うことにより、滞納区分所有者の所有する区分所有建物を競売にかけ、第三者が当該建物を所有することにより、その第三者から滞納管理費等を徴収する方法も検討することになります。

 4.区分所有法59条による競売

滞納区分所有者に対する訴訟を提起し、判決を取得したにもかかわらず、当該区分所有者にみるべき財産がない場合には、当該区分所有者の所有する区分所有建物を競売にかけ、第三者が新たな区分所有者となることで、その第三者に従前の滞納区分所有者の滞納管理費等もまとめて支払ってもらうという方法が考えられます。

 区分所有法8条は、従前の区分所有者に滞納管理費等がある場合に、当該区分所有者から新たに区分所有建物を譲り受けた第三者(特定承継人)は、従前の区分所有者の滞納していた管理費等の支払義務を引き継ぐことを定めています。

 そのため、管理組合としては、滞納管理費を回収するため、滞納区分所有者の所有する区分所有建物を競売にかけ、第三者が取得してくれれば、その第三者から滞納管理費をまとめて支払ってもらうことが期待できるとともに、当該第三者が所有者となった時点以降に発生する管理費等についても支払いを受けられる可能性が高まります。

 この点、一般的な強制競売においては、先順位の債権者(抵当権者等)がいるため競売を申し立てる債権者に配当が回ってこない場合には、無剰余取消といって、競売の申立が裁判所により却下されてしまい行うことができません。

 しかし、管理組合としては、例え強制競売による配当が受けられなかったとしても、滞納を続ける区分所有者から第三者に区分所有建物の所有権が移ってくれれば、新たな区分所有者から滞納管理費等や、将来の管理費を回収できる可能性が高まるため、この場合でも競売を行うメリットがあることになります。

 区分所有法59条は、このような管理組合の要望を反映し、一定の要件のもと、例えば配当を管理組合が受けられない場合であっても強制競売を行うことができることを定めています。

 なお、同法59条による競売を管理組合が行うにあたっては、必ず総会の特別決議を経なければなりません。

 また、同法59条の競売の申立ての実体要件としては「共同利益背反行為による共同生活上の障害が著しいこと」と「他の方法に基づく請求によってはその障害の除去、区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること」という2つの要件を満たす必要があります。

 このように、同法59条の競売は要件が厳しいものの、長期(2年から3年)の滞納が生じており、滞納区分所有者から支払方法の交渉に応じる意思も見られず、当該区分所有者に差押え可能となるような財産も見られないといった場合には同法59条による競売が認められる可能性が高いと解され、こうした請求も視野に滞納管理費の回収等をはかっていくことが考えられます。

 

監修弁護士紹介

弁護士 亀田 治男(登録番号41782)

経歴

2003年3月 上智大学法学部地球環境法学科 卒
民間生命保険会社(法人融資業務)勤務を経て
2006年4月 東京大学法科大学院 入学
2008年3月 東京大学法科大学院 卒業
2008年9月 司法試験合格 司法研修所入所(62期)
2010年1月 弁護士登録(東京弁護士会)
都内法律事務所にて勤務
一般民事(訴訟案件等)と企業法務に幅広く携わる。
楽天株式会社の法務部にて勤務
2018年1月 渋谷プログレ法律事務所開設
2021年5月 プログレ総合法律事務所に名称変更

 

資格

・宅地建物取引士

・マンション管理士

・管理業務主任者

・中小企業診断士

・経営革新等支援機関(認定支援機関)

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